エピローグ


 アネモネは今、とても穏やかな心持ちだ。自分もまもなく、消滅することができる。彼女はそれを、大変嬉しく思っていた。永い時間の終わりの、なんと晴れやかなことか。
 彼女の目の前には、ソーダたち四人の墓がある。四人とも、ずいぶん長生きしたようだ。刻まれた生没年は、ほとんど同じである。幸せなことだ。その隣にある、ソーダたちの一つ前の代の勇者たちの墓と見比べながら、アネモネは思った。一つ前の代、その時にも、一人だけ、魔王との戦いで命を落とした者がいた。世界を守るため、犠牲になったとある魔法使いの女性、彼女の墓の前には、黒焦げになった骨の残骸が置かれてある。それは、諦めた大人たちの遺した、未練の塊なのかもしれない。
「初めは、小さな未練が集まっただけだった。けれど、未練は次の未練を生み出して……でも、もう終わりだものね」
 微笑みながら、アネモネは墓から離れた。もうこの墓地にいる必要はない。これ以上、勇者も魔王も現れないのだから。ソーダたちに会った頃と変わらない姿で、大好きな白い花畑に向かって歩く彼女の身体は、徐々に薄くなっていく。
 アネモネは、安らかな気持ちでこの世から消えた。

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