プロローグ


 勇者に必要な力とは、なんなのだろうか。白い花畑で、彼女はずっと考えていた。何度倒されようと数百年の時を経ては復活し、世界を幾度となく滅びへ導こうとしてきた、人々の恐怖の象徴たる魔王。その魔王を倒して世界を救うべく、勇者もまた魔王と同じ数だけ現れ、神が人類に与えたとされる伝説の剣を手にした。勇者には伝説の剣を扱う力があり、伝説の剣は無敵と謳われる魔王すら切り裂くことができた。
「けれどそれで、いいのかしら」
 立ち並ぶ墓を眺めながら、彼女はつぶやいた。灰色のフードの中で、長い黒髪が揺れる。ここで考え込めば答えが見つかるというわけでなくとも、彼女は考えずにはいられなかった。
 勇者をなにより勇者たらしめるのは、伝説の剣の力を引き出すための力であり、それは神によって選ばれた人間に与えられるという。勇者という存在に必要な力とは、当然その力のはずだ。けれども。
「なにかが、足りない……」
 新たな魔王の復活は、目前まで迫って来ている。その前に見つけなければ。

 本当に救ってくれる、勇者を。

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