迷路の掌中
とある遊園地のアトラクションの一つである、巨大な迷路。とても難易度が高い迷路として、そこそこ有名だ。安全のため、迷路内には各所にカメラとギブアップ用の出口が設置されているのだが、途中で諦める人がほとんどで、ゴールまで辿り着ける人はかなり少ないらしい。
正直自分はこういったものにあまり興味がないのだが、友人に勝負を挑まれた。どちらが先に出られるか、タイムアタックで勝負だと言う。どうにも自分は挑発に対する耐性が無いようで、挑まれた以上は仕方がないと受けてしまった。友人が、アトラクションのスタッフも驚きの好タイムで出てきたから、というのもある。
かくして自分は迷路に挑み、かれこれ三時間、迷い続けている。友人の出したタイムはとっくに過ぎており、正直今すぐ出たい。さすがにいい加減、プライドなどどうでもよくなり、諦めている。
しかし、出口がない。ゴールが見つからないだけではない。どこにも出口がない。
ギブアップ用の出口がないのだ。
迷路に入ってすぐのときには、随所に出口の扉があることを確認したはずなのだが、今はいくら歩いても出口が見つからない。ぐるぐる、ぐるぐると、同じ場所ばかり何度も何度も回り続けているわけでもない、はずなのだが。たとえそうだとしても、ギブアップ用の出口は見つかるはずなのだが。いくら見渡しても、目を凝らしても、視界に入ってくるのは壁だけだった。
試しに壁を押したりしてみても、扉など無く、全て壁だった。八方塞、五里霧中、周りにあるのは壁ばかり。歩いても歩いても同じような壁しか見えない。本当に霧の中にでもいるような気分だ。不正行為の防止のため、荷物や携帯は全て入り口のロッカーの中。アナログの腕時計で、辛うじて時間はわかる。時刻は夕方。屋内のこの迷路ではあまり関係ないけれど。
ところでもう一つ、おかしなことがある。誰もいないのだ。他の客を、全く見かけない。出口の扉と同様に、入ってすぐのうちは、何度か人とすれ違うことがあった。なにか言葉を交わしたわけでもなく、ただの赤の他人だが、それでも初めはこの迷路にいた。いたはずだ。いや、今もいるはずだ。そうだというのに、いくら歩いても、どこまで歩いても、人影を見ることはなかった。道と壁だけが、どこまでも続いていた。
だが、とにかく今は歩くしかない。次の曲がり角は、どちらへ進もうか。