迷路の掌中


 真っ直ぐに、真っ直ぐに、ただただ走り続けて、いったいどこまで来たのだろうか。あまりにも長い道をひたすら走り続けたような気がする。
 ふと振り返ると、そこにあったのは壁だった。すぐ目の前に、白い壁があった。前を見れば、ただ一本の真っ直ぐな道。後ろを見れば立ち塞がる真っ白な壁。
 ただひたすら、前に進んだ。前へ前へと、走り続けた。壁に追われているような気がする。真っ白な壁が、追ってきている。何度振り返っても、壁は目の前にあるような気がする。壁が、床が、天井が、閉じ込めて、捕まえようとしてきているような、そんな気配が全身で感じられて、あまりにも恐ろしくて。絶対に、振り返ってはいけない気がした。
 前へ前へ、ただひたすらに走る。真っ直ぐに続くだけの一本道を走る。心なしか、道が狭くなったような気がする。少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、けれど着実に。近づく壁、低くなる天井。捕まる。閉じ込められる。だからとにかく、走った。

  *

 無我夢中に走って、目の前に現れた扉を開いたら、そこはギブアップ用の出口だった。ふと時計を見ると、一時間ほど時間が戻っていた。結局諦めたのかと、友人に笑われそうな気がしたが、そんなことはもうどうでもよかった。もう一度振り返っていたら、笑われることすらなかったような、そんな気がする。

  終


戻る