おやすみ、夢の中で


以前、「おやすみ、夢の中で」というホラーノベルゲームに載せていた短編を、小説に近い感じにしたお話の詰め合わせです。
(元がゲームのため、普段の自分の小説ではまず書かない書き方もたくさんしています)

目次(タイトルをクリックで各作品まで飛べます)

眠れぬ夜の羊飼い
幽霊アパート
がっくりさん
想像の話
腕の群れ
迷路の掌中
雨音
影ごっこ
路線違いのバス
帰り道
私の身体は誰のもの?


眠れぬ夜の羊飼い

 夏の夜は暑い。昼間に比べたら幾分マシだが、湿度の高い空気はべっとりと肌に張り付くような気がする。纏わりついてくる熱気の中、俺はベッドの上で身体を大の字に広げていた。こうして寝ようとしてから、もうどれぐらい経っただろうか。クーラーの壊れた寝室はどうしようもなく暑い。眠気はあるはずなのに、眠りに落ちることができない。
 暑いからだ。涼しくなれば眠れるはずだ。けれども、その手段はない。久々に押し入れから取り出した扇風機は、ちっとも働いてはくれなかった。全開にした窓からも、風が吹き込むことはほとんど無い。
 どうすればいい。どうしようもない。
 けれども、眠ることを諦めてなにかをするような元気もない。仕方がないから、もう一度目を閉じて、いつの間にか眠りについていることを願った。それで眠れるのならば、苦労はしないのだけれども。
 だが、単にこうして横になって目を閉じているだけだと、余計な考えと、暑いという感覚が、頭の中を動き回って騒がしい。なにか、静かにできること。あまりに古典的で、日本語でそれをすることに意味があるのかはかなり疑わしいが、一つだけ思いついた。
 羊を数えることにしよう。他の考えを、感覚を、遠ざけることぐらいはできるはずだ。

 羊が一匹、羊が二匹。

 穏やかな牧場で、羊たちが柵を飛び越えていく。あれは羊を囲むための柵ではなかったのか。そんなことをつい思ってしまったが、これではいつまで経っても眠ることができない。今はスルーしておこう。頭の中の羊なんて所詮ファンタジーだ。

 羊が三匹、羊が四匹。

 少し賑やかになってきた牧場を、穏やかな陽射しが包んでいる。なぜだ。こんなに明るい場所で、眠れるはずがない。太陽には早急に沈んでいただき、静かな夜をお招きしなければ。高速で姿を消した太陽に代わって、暗い夜空には優しい月が浮かんだ。そうだ、これでいい。

 羊が五匹、羊が六匹。

 羊たちは順調に増えていく。順調にうるさくなっていく。どういうことだ、彼らの鳴き声はうるさい。今は夜なのだから静かにしてくれ。彼らはファンタジーの羊だ。鳴かないで、静かに過ごすことぐらい、彼らにとっては容易いはずだ。静かに、静かに。鳴き声なんていらない。そうだ、そうだ、それでいい。

 羊が七匹、羊が八匹。

 静まり返った深夜の牧場で、羊たちを淡々と数える。

 羊が九匹、羊が十匹。

 音を立てずに柵を越えていく羊たちを、淡々と数える。本当に、本当に、静かだ。

 羊が十一匹、羊が十二匹。

 近くにいるはずなのに、音は一切聞こえない。まるで生き物には見えない羊たちを、身じろぎもせずに羊飼いは数える。

 羊が十三匹、羊が十四匹。

 柵を越えるだけの羊を、羊飼いは無心に数える。羊たちはどこから来て、どこへ行くのか、羊飼いは知らない。

 羊が十五匹、羊が十六匹。

 羊飼いは、ただ羊を数えていればいい。右から左へ、柵を飛び越えていく彼らを、ただただ見つめていればいい。

 羊が十七匹、羊が十八匹。

 ところであれは、本当に羊なのだろうか。白と黒の塊は、少なくとも、真っ当な生き物ではない。

 羊が十九匹、羊が二十匹。

 そうだとして、今さらどうしろと。羊飼いの身体は動かない。

 羊が二十一匹、羊が二十二匹。

 羊飼いの視界に入るのは、彼らだけだ。首も目線も動かない。ついでに瞼も閉じれない。

 羊が二十三匹、羊が二十四匹。

 ついに羊と目が合った。羊飼いの瞳と、真っ黒な瞳が重なる。物言わぬ彼らの、つぶらな瞳。しかしあれを、果たして生き物の瞳と言っていいのか。生きとし生ける全てのものに、失礼かもしれない。

 羊が二十五匹、羊が二十六匹。

 目を合わせた羊は、視界から消えていった。別の羊も、目を合わせて、また消えていく。しかし便宜上まだ彼らを羊と呼んでいるが、本当にそれでいいのだろうか。やはりそれは、全ての生き物たちに失礼なことかもしれない。

 羊が二十七匹、羊が二十八匹。

 白い毛も、黒い毛も、とても毛にはみえない。ごわごわとしているが、毛であろうとしているが、どうしようもなく触りたくない。触れたが最後、自分はあれの一部になってしまう。なぜだかわからないが、そんな気がした。あんなのが羊のわけがない。

 羊が二十九匹、羊が三十匹。

 あれらが羊でないのならば、羊飼いではなく、いったいなに飼いだというのか。今さら羊飼いには戻れない。彼らを羊と言い張れないかぎり。視界には、彼らしかいないのだから。

 羊が三十一匹、羊が三十二匹。

 こちらを見つめる彼らの瞳が強くなる。動かない身体が、もうどうしようもなく動かなくなる。まばたき? それはなんだろう? 呼吸は、しているのか? 心臓は? 脳みそは?

 羊が三十三匹、羊が三十四匹。

 毛であろうとしている塊は、次第により大きくなり、ぐらぐらとうねるようになった。あれはあれだけで生き物のようだ。なにかを求めるように、それはうごめく。ぐねぐね、ぐらぐら、果てしない。

 羊が三十五匹、羊が三十六匹。

 なんだ、彼らはやはり生き物のだったのではないか。そうだ、彼らは初めから動いている。立派な生き物じゃないか。

 羊が三十七匹、羊が三十八匹。

 ギラギラ光る瞳、ぐらぐらうごめく身体。月の隠れた暗闇のなかでも、彼らをはっきりと認識できた。白も黒も関係なく。

 羊が三十九匹、羊が四十匹。

 くっきりと浮かび上がる彼らは、毛のような塊だけでなく、その全体が少しずつ大きくなっているような気がする。大きくなっている? 違う、そうじゃない。その言い方だと語弊がある。

 羊が四十一匹、羊が四十二匹。

 大きくなっているんじゃない。彼らは近づいている。確実に、じわりじわりと。もう、彼らは、目の前にいる。羊飼いの目の前に。自分の目の前に。

 羊が四十三匹、羊が四十四

 飲まれる、飲まれる、飲み込まれる。あれはなんだ、これはなんだ。ガスのようだ、雲のようだ、ヘビのようだ、糸のようだ、炎のようだ。巻き込まれる、絡め取られる、圧縮されて、凝縮されて、一体どうなるというのか。どこかで凍っていた恐怖が、今さら溶け出して、全身を満たしていく。指先も、爪先も、まぶたも、もしかしたら心臓も、動かないというのに。いったいどうなっているんだ。いったい何が何なんだ。飲み込まれる、飲み込まれる、みんな一つになって、それで、おしまいだ。

 ……

 まぶたの向こうの朝日が眩しすぎて、眠りから覚めた。羊飼いは夢から覚めた。違う、違う、自分は羊飼いなんかじゃない。そうだ、自分は、ただの高校生で。どこまでが現実で、どこまでが夢だったのか。
 ただ、なんとなく、朝日が顔に当たる位置にベッドを置いた自分を、褒めたいなぁと思った。

 ***

 どんなに暑い夏だろうと、補講は容赦なく襲い来る。暑すぎるから今日は休み、それでいいじゃないかと思うのだが、この世界はままならぬ。仕方がないからアイスを買い食いして、暑さをごまかしながら帰り道を歩いていた。もう高校生だし、死なないためだし、買い食いぐらい許される。残機なんてないのだし。夢とは違うのだし。
「そういえば今日、 夢の中で死んだ気がする」
「また死んだのか」
「死んだっていうか、取り込まれた」
「何に?」
「さぁ?」
 夢の中で、謎の何かに襲われたりすることは割とよくあった。だからといって、慣れるようなものでもないが。
「何かに似ていた?」
「初めは羊だった」
「柔らかそうだな」
「苦しかった」
「窒息死か」
「窒息死なんて、生易しい」
「それは酷い」
 悪い夢は、人に話してしまえばいいと聞いたことがあるが、思い出すごとに生々しさが脳にこびりつく。
「羊以外だと?」
「例えようがない」
「最近見たホラー映画は?」
「映画はあまり見ないと言ってるだろ」
「うん、知ってる。漫画とか小説は?」
「今やってるゲームで手一杯だ」
「グロい系?」
「ほのぼのファンタジー」
「そっか」
 根掘り葉掘り聞かれるが、最近ハマっているのはグロの欠片もない平和な育成ゲームだ。
「夢の中の異形は、どっから現れるんだろうな」
「つまり元ネタ?」
「うん。夢って人間の記憶を整理するときに見るとかなんとか言うじゃん」
「俺の記憶の中にあの異形がいると」
「欠片ぐらいは」
「欠片だけでもごめんだ、あんな異形」
「そうだとしても、夢の中にはいる」
「つまり?」
「異世界の電波を受信している可能性」
「異形たちの世界?」
「そう。 その役目に選ばれた、 栄えある地球人第一号」
「誰が喜ぶんだ、そんな役目」
「オカルトマニアとか?」
「譲ってやりたいなぁ」
「夢の受け渡しか」
「できると思う?」
「異世界のテクノロジーを借りたら、もしかしたら?」
「なにも解決していない」
「でも、もしもそいつらが実在したら、どうする?]
「死ぬしかない」
「夢もなにもないね」
「お前だったら?」
「捕獲して見世物にする」
「容赦ないな」
「こっちは恐怖を支払ってるんだ、対価をもらわないと」
「俺が払った恐怖は、全て踏み倒されてる気がする」
「そう思っているうちはね」
「それ以外が考えられない」
「その時点で負けだね」
「結局、食べられるか、取り込まれるか、飲み込まれるか、殺されるか、そういうのしかないのか」
「そのどれかだといいね。まだ、人間の言葉でも表現できる」
「辛うじてだけどな」
「それにしても、彼らは一体どこにいるのだろうか」
「さも実在するかのように言うな」
「誰かの脳の奥底にいるのも、実在の一つの形、なんて思ったりする」
「恐ろしい話だな」
「少しは涼しくなった?」
「アイス食べてたわけだし?」
 食べ終わったアイスの棒を、ゴミ箱に放り込む。暑いのは嫌いだが、背筋を凍らされるより幾分マシだと思った。

  終


幽霊アパート

 僕は幽霊なんて信じない。幽霊なんているわけがない。
 最近の不可解な現象に対して、僕が真っ先に言う言葉だ。一人暮らしの僕を襲う、不穏ななにか。この一ヶ月ほど、僕の平和な日常は何者かによって乱されつつある。
 例えば、消したはずなのに点いている電気。確かに消したはずなのに、家に帰れば電気が点いている。初めは自分の不注意を疑うが、それでも同じようなことが何度も続けば、自分以外の存在も疑う。
 例えば、移動している家具や日用品。いつの間にか違う場所に移動しているそれらの、全部が全部、自分で無意識に動かしたのだと言えるだろうか? いくらなんでも多すぎるのだ。
 例えば、深夜に聞こえる物音。かたかた、がたがたと、なにかの音が聞こえる夜が、幾度もあった。風のない夜に、こんなにも何度も、空耳か? いいや、違う。なにかの仕業だ。
 こういう話をすると、幽霊の仕業だなんていう奴がいる。だけど、僕は幽霊なんか信じない。幽霊なんているわけがない。それに、世の中には幽霊よりももっとずっと恐ろしい連中が溢れかえっている。
 人間だ。恐ろしい人間の仕業に違いない。
 ストーカーか、空き巣か。今のところなにかを盗まれた形跡はないが、一体なにが狙いなのか。恐ろしい、あぁ恐ろしい。幽霊なんていう概念だけの存在よりも、目に見える人間の方が、よほど恐ろしい。
 だが、僕はそうやって、恐怖に怯えるだけの人間ではない。家族に相談した。大家さんに相談した。警察に相談した。幸いにも、僕の姉や両親は、この手の話を親身になって聞いてくれる人たちだった。そうして僕は、近くの別のアパートの、三階の部屋に引っ越すことになった。今までの一階の部屋よりもずっと安全だろう。
 入居する際には、カメラや盗聴器のような怪しいものがないか、隅から隅まで調べた。そして隣の部屋には、同じ大学に通う姉も引っ越してきた。姉には合鍵も持っててもらっている。そこまでしなくても、と思ったけれど、姉は心配性だった。なにはともあれ、僕の平穏な大学生活はこれで取り戻された。戸締りはきちんとするし、訪問者には警戒するし、ドアのチェーンも使うし、アパートの玄関には防犯カメラもある。これでもう、大丈夫だ。

 そんな風に思い、安心した頃、何者かは再び現れた。初めはやっぱり、自分のミスだと思った。家に帰ったら、電気が点いている。消した記憶は確かにあった。だけど、でも、そう、一回ぐらいなら。そう思って、そう信じたのに、あっという間に、二回、三回、四回。家具は動く、日用品も移動する。深夜には怪しい物音。どうしてまた現れる! 解放されたと思っていたのに!
 真っ先に、隣に住んでる姉に相談した。姉は僕の話を、真摯に聞いてくれた。僕の背中をなでて、安心させようとしてくれた。部屋の中や玄関先に、怪しいものがないか一緒に探してくれた。姉が休みの日には、留守中の僕の部屋を気にかけてくれた。防犯カメラまで買ってきて、僕の部屋に置いてくれた。
 だけど、それでも。
 なにも解決することはなかった。何者かが、僕の部屋にいる。痕跡も無く、ものを動かしている。防犯カメラにはなにも映っていない。だけど確かに、何かがいて、僕の日常を脅かしている……!
 人間だと思いたかった。人間の仕業だと思いたかった。それを嘲笑うかのように、見えないなにかは、とても人間だとは思えないような異変を、僕の部屋に巻き起こしていた。
 怖い。怖い、怖い、怖い……! 幽霊なんて概念だけの存在じゃなかったのか! どうしてこんな異変を引き起こせるというんだ! 目に見えないくせに! 触れないくせに! 捕まえられないのに! 逃げられないのに!
 家に帰ること自体が、次第に恐ろしいことになっていった。帰るのが怖くて、夜遅くまで友だちと遊んで、その日も、家のドアを開けたのは深夜のことだった。いつものように、怯えながら、鍵を回して、ドアノブを掴んで、家のドアを開ける。灯りを点けて、靴を脱いで、上がろうとして。
 僕は硬直した。身体が凍りつく。嫌ななにかが纏わりつく。這い上がって僕を絡め取る。足がとんでもなく重い。動けない。だけど逃げなきゃ。殺される。
 必死に、必死に、足を動かして、身体を動かして、自分の部屋のドアを勢いよく閉めて、姉の部屋のドアを叩いた。すぐに出てきてくれた姉は、僕を見ただけでこの恐怖を察したようで、強く抱きしめてくれた。そのことに、僕はどれだけ救われただろうか。結局その夜は、姉の部屋で眠った。さっき見た光景が、廊下に落ちていた包丁と赤い何かが、頭にこびりついて離れなくて、ずっと震えが止まらなかったけど。姉はそんな僕を、僕が眠りにつくまで、ずっとずっと抱きしめてくれた。

 僕を抱きしめる袖口の赤は、見なかったことにした。

  終


がっくりさん

 がっくりさん、というのがいるらしい。こっくりさんではない、がっくりさんだ。人の書いている物語を勝手に読んでは、おもしろくないとすぐに、隣でがっくりがっくりと囁くらしい。なんて傍迷惑な都市伝説だろう。もともとそういった非科学の類いは信じない質だが、特に現れないでほしいやつだと思った。
 とはいえ、現れないでほしいものほど現れるのが現実で。ある春の夜、俺はいつものように、パソコンを前に徹夜で話を練っていた。とある週刊誌で連載中の、漫画のプロットだ。もっとも、俺は絵がさっぱりかけない。俺が作っているのはストーリーだけ。二人で分担しているのだ。
 そんな連載に、正直俺は限界を感じつつあった。アンケートの結果も、単行本の売れ行きも、ここのところ芳しくない。そして、それは作画のせいじゃない。絵に詳しくない俺の目から見ても、作画は日々上達しているように見えるし、少しだけ見てしまったネット上の評判も絵については相変わらずよかった。何より、俺自身が今の話はおもしろくないと感じている。
 おもしろくないんだ。痛いぐらいにわかっている。こんな話の何がおもしろい。だが、どうすればおもしろくなるのかさっぱりわからない。わからないまま、締め切りに追われるまま、おもしろくない話を今日もどうにか形にしていた。
 そんな夜だった。

 がっくり、がっくり。

 聞こえた小さな囁き声を、俺は聞き間違いだと思った。

 がっくり、がっくり。

 あるいは幻聴だ。

 がっくり、がっくり。

 あんな話を聞いたせいだ。聞きかじった都市伝説が、幻聴になってしまったんだ。

 がっくり、がっくり。

 自分の話がおもしろくないとわかっているから、こんな幻聴が聞こえるんだ。

 がっくり、がっくり。

 がっくり、がっくり。

 声は止まない。なんて酷い幻聴なんだ。そうだ、幻聴だ。無視すればいい。無視しろ、無視するんだ!

 そうして俺は、ひたすらに声を無視して、どうにか今週もプロットを仕上げた。ここまで幻聴が酷いと、精神科にでも言った方がいいのだろうか。だが、今の俺にそんな暇はない。たとえおもしろくなくても、苦労してようやく掴み取った連載だ。俺一人のものでもないんだ。最後まで足掻きたい。足掻き続けたい。

 そうして、一週間後。その日も、俺は徹夜で話を練っていた。目の前の液晶に、文字を羅列していく。おもしろくない。つまらない。わかってる。だがどうすればいい? これが、この流れが、この台詞回しが、今の俺にできる精一杯で、これ以上のものはさっぱり浮かばない。悔しくて悲しくてそれでも書くしかないと、精一杯キーボード叩いていた。

 がっくり、がっくり。

 まただ。

 がっくり、がっくり。

 聞き間違いじゃない、幻聴だと諦めていた。

 がっくり、がっくり。

 しつこい。幻聴なんて、幻聴なんて……!

 がっくり、がっくり。

 そういえば、この声はなぜか常に右側から聞こえる。

 がっくり、がっくり。

 幻聴なら、方向もなにもないのではないのか?

 がっくり、がっくり。

 いや、もちろん幻聴にも向きぐらいあるのかもしれないが。

 がっくり、がっくり。

 一度浮かんだ疑念はそう簡単には晴れない。いるわけがないのに、もし万が一いるとしても、絶対に見たくなどないのに。人の好奇心は恐ろしい。
 気づいたら俺は、自分のすぐ右隣を見ていた。見ているつもりだった。首を回した途端に、俺の視界は黒で塗り潰されてしまった。真っ黒だ、なにも見えない。目を開けているはずなのに、暗い、黒い、なにも見えない。俺はとうとうおかしくなったのか。身体が震えだす。もう春だというのに、寒い。
 だがそれも、実際には僅かな時間だったようで。俺の視界は唐突に戻ってきた。モニターの右下の時計は、視界を閉ざされる前と同じ時刻を示している。首を回して視線を向けた先、俺のすぐ右隣には、なにもない。なにもいない。幻聴も止んで、いつも通りの部屋が戻ってきた。
 いや、一つだけ、決定的におかしなことが起きていた。一分にも満たないはずのあの僅かな時間に、俺のプロットは全て書き直され、今週分が最後まで仕上がっていた。一体なにが起こったのかさっぱりだったが、そんなことよりともかく俺の意識はそのプロットの内容に持っていかれた。他のことが全て頭から飛び去り、俺はただ夢中でそれを最後まで読んだ。
 おもしろい。
 その一言に尽きた。俺がいくら時間をかけたとしても書けないであろう、最高におもしろい話がそこにあった。一体誰が、どうやって、そして俺はこれをどうすれば。
 俺にだってブライドがある。俺にだって良心がある。 結局のところそれらも、最高におもしろい物語という誘惑の前では儚い壁に過ぎなかったが。
 翌日、担当はおもしろいと言いつつもいぶかしげにしていたが、何かが吹っ切れて書けるようになったのだと言えば納得してそのまま受け取った。

 一週間が経った。いくら先週が最高におもしろかったからといって、その続きがおもしろくなるとは限らない。俺は再び煮詰まっていた。
おもしろい話のおもしろい続きが思いつかない。結局俺は、おもしろくない話を無理矢理仕上げるしかないのだろうか。先週との落差で余計につまらなくなってしまった、まるでおもしろくない話を。

 がっくり、がっくり。

 あぁ、まただ。

 がっくり、がっくり。

 また声が聞こえる。右隣から聞こえる。

 がっくり、がっくり。

 半ば自棄だった。俺は右を向いて、視界を奪われた。暗い、黒い。真っ暗な中で、背筋が凍りつく気がする。だけれども、先週よりかはあっという間の時間だったように感じる。
 俺の視界はやがて取り戻され、なにもない右隣からパソコンのモニターへ視線を戻せば、そこにあったのは完成したプロットだった。夢中になって読んだそれは、先週よりも更におもしろくて。麻薬のようだと、一瞬思った。だがそれは、逃れられないからこそ麻薬なのだ。一度壊れた良心とプライドに、一体なにができるというのだ。
 最高におもしろい話は、俺に望む結果を与えた。アンケートの結果はみるみるうちに伸び、単行本の売れ行きも好調。毎週毎週、ぞっとする感覚に襲われる必要はあるが、たったそれだけで、俺は最高におもしろい話を得られた。あぁ、全てがうまく回る。都市伝説の中にも、たまにはいいやつもいるんだと、そんな風に思った。

 がっくりさんが現れて、半年以上経ったある日。その日は雪が降っていた。真冬の、特に寒い日だ。そんな日に、外に出たわけでもないのに、俺は凍りついた。ネット上で燃え盛る話題、その中心にあったのは、とある大手小説投稿サイトの作品と、俺だった。昨年の日付で確かに投稿されているその作品を急いで読んでみる。その内容は、あの日、あの夜からの俺の漫画の展開とそっくりだった。設定や登場人物こそ違うが、話の流れはぴたりと当てはまる。
 そして、読み進めれば読み進めるほど、俺の漫画の設定や人物が、その小説に近づいていた。誰が見ても明らかだった。
 一度燃え上がった炎は、俺や俺の作品という燃料がある限り燃え続けることだろう。どうすればいい、どうすればいい? どうすればいい! なにもわからない、逃げ出したい、そうだ逃げればいい!
 真っ白な頭を抱えたまま、真っ白な雪の中へ、部屋着のまま俺は飛び出した。どこでもいい、逃げたい、とにかく逃げたい、誰もいない場所へ。
 必死に走る俺の目には、なにも映らなかった。だからわけもわからないうちに足を滑らせ、全身に突き刺さる冷たさに気づいたときには手遅れだった。真冬の凍りそうな水の中、それでも、足掻きたくて、足掻きたくて……!

がっくり、がっくり。

  終


想像の話

 私はよく、あり得ない死を想像していまう。たとえば廊下に、吊るすような形の照明があるとする。いや、むき出しになっている豆電球でも同じことを想像するのだが。ともかく私は、その照明を見て、私が真下を通るその瞬間にそれが落ちてきて、私の頭にぶつかって、私は死んでしまうかもしれない、と想像してしまう。もちろん、そんなことほぼあり得ないと理性はわかっていて、けれども、理性がわかっているからといって止められる想像でもなかった。
 外を歩けば危険だらけ、突然突っ込んでくるトラックなんて定番。ビルからは植木鉢が落ちてくるかもしれない。すれ違うあの人は通り魔かもしれない。実はミサイルが落ちる10秒前かもしれない。工事の影響で地面が抜けるかもしれない。動物園から逃げ出した猛獣に襲われるかもしれない。外灯が突然倒れるかもしれない。目の前で自販機が爆発するかもしれない。大気中に恐ろしいウイルスがばら撒かれているかもしれない。
 屋内に入ったところで危険は尽きない。立て籠り事件の人質にされるかもしれない。エレベーターに乗ろうとして身体が真っ二つになるかもしれない。エスカレーターに足を挟まれてそのままショック死するかもしれない。突き飛ばされた誰かにぶつかって、目の前の棚の棒が突き刺さるかもしれない。老朽化で崩れた天井の塊に頭を砕かれるかもしれない。
 とにかくそういう、全くあり得ないわけではないかもしれないけれど、ほぼ確実に起こり得ない、自分が死ぬかもしれない可能性を想像してしまう癖があった。
 そして、それだけならよかったのだ。私がちょっとおかしな人間というだけで、世界は平和だった。
 ある、曇り空の、平凡な日のことだった。駅のホームで私は、ポイ捨てされた空き缶で滑って転んで線路に落ちて、そのタイミングでやって来た電車にぶつかる自分を想像してしまった。いつも通り、そんなのあり得ないと理性は否定する。
 しかし。それはあり得ない出来事ではなかった。
 私の目の前で、一人の青年が、足元の空き缶を踏んでしまい、滑って転んで、線路に落ちた。まさにその瞬間、電車がやって来て、彼は帰らぬ人となった。私はただそれを、呆然と見ていた。なぜ空き缶は落ちていたのか、なぜ彼はそれに気づかなかったのか、なぜ転んだ彼は線路にまで落ちたのか、なぜ電車はあのタイミングでやって来たのか。なにもわからないけれど、結果として彼が死んだのは事実だ。

 事故から一週間が経った。私の妙な想像は、あの事故を防げたのだろうか。或いは逆に、私の想像があの事故をもたらしたのだろうか。なんにせよ、私の想像は相変わらずだった。想像が事故や事件をもたらすなんて考えすぎだろうが、それでも自分の想像は不快でやめたくて、けれど意識してやめられるようなものでもなかった。どうしようもないのだろうと諦め気味な私は、今日も街を歩きながら、すぐ側の建物の看板が落ちてきて、押し潰される自分を想像してしまった。
 そして落ちてきたのは、私が立っている場所よりも、もう少し手前の建物の看板だった。
 建物の真ん前にいた少女の上に看板は落下し、彼女はなすすべなく、つぶされた。誰かが通報して、すぐに救急隊員が駆けつけたが、彼女は助からなかったそうだ。
 また、だ。私が想像した直後に人が死んで、私はなにもできなかった。ただの偶然かもしれない。それでも、なにか私にできることはなかったのだろうか。

 更に一週間が経った。 何の変哲もない普通の日だけど、この前の事故からぴったり一週間、同じ曜日だった。等しい周期で人が死ぬのなら、まさに今日だけれど、どうなのだろうか。せめて友だちが死ぬのは嫌だと思って、なにかしたくて、浮かび上がる想像を全部話した。初めはみんな笑い飛ばしたけど、段々気味悪がられて、当然の反応かもしれないけど、それでも苦しくて、悲しくて、最後はもう逃げるように別れた。別れ際、宅配ピザのスクーターが近くに止まっているガス屋のトラックに突っ込んで爆発して死ぬ自分を想像してしまったけど、それはもう話さずに別れた。
 少し歩いて、みんなが遠ざかったところで、爆発音がした。それは背後から聞こえた。とても大きな音だった。消防車がやってきて、救急車がやってきて、何人か助かった人もいたけど、私の友だちはみんな死んでしまった。ピザ屋のスクーターがガス屋のトラックに突っ込んできて爆発したと、ニュースキャスターは言っていた。
 私はどうすればよかったのか。悲しみに暮れている間も、突然爆発するテレビ、倒れる本棚、抜ける床、飛んでくる核兵器、その他諸々の恐ろしい想像が、私の頭の中で騒いでいた。

 更に一週間、経たないうちのことだった。あれから五日後、私の想像と同じ形で、目の前で人が死んだ。それからは、四日後だったり、六日後だったり、三日後だったり、とにかく頻繁に人が死んだ。私の目の前で死んだ。
 想像を止められないなら、いっそ私が死ねばいいんじゃないのか。そんな考えもよぎったけれど、私に死ぬ勇気はなかった。私が死んだからといって、私の目の前で死んでいく人たちの運命が変わるとは限らないのだし。無駄死になんて余計に嫌だ。だから私は相変わらずで、世界も相変わらずで、何人も、何十人も、何百人も死んでいった。

 最初の事故から、一年ぐらい経っただろうか。我ながら、よく耐えたと思う。だけどそろそろ限界だ。週一以上の頻度で人の死を見せつけられるなんて、もうたくさんだ。今なら死ねる気がする。いや、やっぱり死ぬのは怖い。死ぬのも怖いし、今のままも怖い。わがままかもしれないけれど、怖いものは怖い。怖くて怖くて仕方がない。どうすれば、どうすれば。
 どうしようもなくなって、私は初めて一週間も家に引きこもった。そうして私は、ようやくどちらの恐怖からも逃れる術を見つけた。想像を止められないなら、創造して昇華すればいいのではないか。
 私は湯水のように湧き出る死ぬかもしれない想像を、全部小説に加工してネットから世界へ送り出した。時々ニュースで、私の想像と合致するような事故を聞くけれど、少なくとも私の目の前では起きなくなった。私はもう、それでいいやと思った。私の心は、きっととっくの昔にダメになってる。
 だから、次の犠牲者があなただとしても、どうでもいいや。

  終


腕の群れ

 手が、うごめいている。うごうご、うねうね、ばたばた、ぐちゃぐちゃ。ばらばらに、ぐねぐね。何かを探すようにうごめいている。
 やがて無数の手の群れは、こちらを向いた。こちらを見つけた。こちらを向いている。こちらを見ている。 目なんてどこにもないけれど、確かに見ている。
 そんな風に思えてしまう、夢を見た。

 夕日が部屋を照らしている。今日も昼寝してしまったようだ。やらなきゃいけないことはあるのに、午後の暑い時間はすぐに睡魔に取り憑かれて、いつの間にか、寝落ちてしまっている。スリープモードで放置してしまったパソコンは、一度電源を落としたほうがいいかもしれない。シャットダウンを選択して、けれどこのまま作業に戻る気にもなれなかったから、だらだらと夕食の支度を始めた。
 狭い台所で、さて今日は何を作ろうかと考える。冷蔵庫の中身は、調味料、牛乳、豆腐。
 それから無数の腕。
 白い腕の群れは、冷蔵庫の奥から生えていた。初めはおとなしくしんなりとしていたが、外気に触れて、指の先から、ゆらゆらと揺れ始めた。ゆらゆら、ぐるぐる、ぐねぐね、ぐちゃぐちゃ。なんの法則性もなく、無茶苦茶に動くばかりの指を、手を、腕を、ただ呆然と見つめていて、だけどふと気づいて、冷蔵庫を閉じた。たまには外に出かけたほうがいい。外食をしようと思って、簡単に身支度を整えて、玄関のドアを開ける。
 ばったりと出くわした訪問者は、動き回る腕の群れだった。どこから生えているのかわからないけれど、腕たちはそこにいて、動き回っていた。ありえない方向に捻じ曲がりながら、何かを探すように。ぐねぐね、ぐちゃぐちゃ。見られている。彼らは見ている。こちらを見ている。腕はようやく見つけた。ぐねぐねと、うごめきながら、こちらを見つめて、こちらに近づいて。手の海に沈んでしまいそうな。
 そんな夢を見た。

 どうにも夢見がよくないようだ。のろのろとベッドから起き上がる。夢とは救済で、絶望だ。そんな風に思う。こういう時は、とりあえず水でも飲もう。コップを取り出して、蛇口をひねって、腕が。出てくるわけが無い。それは夢の中の話だ。
 腕はコップの中から生えていた。
 小さな腕の群れが、コップの底から生えている。思わずコップから手を離したら、流しに落ちて、腕が咲き乱れた。腕たちはうごめく。腕たちは踊る。ばらばら、ぐにゃぐにゃ、ひらひら、ぐちゃぐちゃ。そうしてやがて、一様にこちらを見る。例外なく、どの腕も、こちらを見ている。いや、見ているだけで終わるはずがない。腕は伸びる。ぐねぐねと蛇行しながら伸びる。こちらへ伸びる。不揃いに伸びる。振り向いても、上を向いても、下を向いても、右も左も、腕が生えていて、腕が伸びていて。腕が、触れる、触れる、掴む、掴む、捕まる。
 そんな夢をみた。

 今度こそ起きた。起きたのだ。起きたはずだ。家から遠く離れた町の、大きな図書館の片隅で、のっそりと頭を起こした。時計を見ると、無情にも閉館の時刻が近づいている。
 朝までここにいられたらいいのに。ぼんやりとした頭で、ぼんやりと行き先を考える。財布の中身を考える。少しでもお金を使わずに、少しでも遠くへ行くことを考える。遠くに行きたい。
 だけど、考えるうちに閉じていた目を開いたら、視界の片隅に、腕が見えた。腕は、増える。腕は、こちらを見ている。腕は、近づいてくる。ばたばたと手を動かしながら、ばたばたと近づいてくる。群れを成して近づいてくる。手が触れて、掴まれて、捕まって。
 この感触はあまりにもリアルだ。目が覚める気配は欠片もない。

 そんな夢だったら、どんなによかったか。

  終


迷路の掌中

 選択肢は使っていないと思ってこの形式にしましたが、このお話だけちょっとした選択肢を用意していたため、せっかくなので選択肢も残すことにしました。
こちらのページで読めます。


雨音

 じとじとと雨の降る日だった。梅雨の最中、毎日毎日雨が降り、その日も雨だった。じとじと、じとじとと雨が降っていた。
 こんな日は早く帰るのが一番だ、そう思いながら、帰路を辿っていた。大雨というほどでもないけれど、それなりにしっかりと降る雨が、びちゃびちゃと傘を濡らした。
 じとじと、じとじと。
 びちゃびちゃ、びちゃびちゃ。
 雨音が私を、ぐるりと取り囲んでいた。
 じとじと、じとじと。
 びちゃびちゃ、びちゃびちゃ。
 じとじと、じとじと、……ぴちゃん。
 雨音に混じって、水の大きく跳ねるような音が聞こえた。
 ぴちゃり。
 足元に、足首に、冷たい水の感触があった。
 ぴちゃり、ぴちゃり。
 それは雨水だと思った。地面に落ちて跳ねた雨水、あるいは斜めに降ってきた雨水。
 ぴちゃん、ぴちゃり。
 それはとても冷たかった。なんだかぞっとするような冷たさだった。
 ぴちゃり。
 ぺた、ぺた。
 ぺた、ぺた、ぺた。
 水の音がした。雨音の中に、なにかが混じっていた。
 ぽた、ぽた。ぺた、ぺた、ぺた。ぴちゃ、ぴちゃり。
 足を、足首を、冷たい水が包み込んだ気がした。
 ぴちゃり、ぴちゃん。ぺたり。
 地面を跳ねる水より、斜めに降ってきた水より、ずっと冷たい水が、包み込んで、掴んで。
 私は走った。一目散に走った。
 ぺたぺたぺたぺた。
 ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。
 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた。ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。
 冷たい、とても冷たい水が、足首を掴んだ。冷たくて、冷たくて、寒かった。全身が寒かった。ぐっしょり濡れていた。雨水でも雨音でもないなにかが、私を包み込んでいた。丸ごと掴まれた私の頭上で、誰かが傘をさしていた。

  *

 今日も雨が降っている。じとじと、じとじとと降っている。じとじと、びちゃびちゃと、雨音が騒ぐ道の上を、知らない女性が歩いている。
 私の頭上を歩いている。
 ぺたぺた、ぺたぺた。
 びちゃびちゃ、ぴちゃぴちゃ。
 雨音に紛れて、彼女について行く。特に理由はないけれど、そういうものだと思った。
 ぴちゃぴちゃ。ぺたぺた。
 ぴちゃり。ぺたり。
 雨音と、彼女の足音と、私の足音が混ざり合う。
 ぴちゃり、ぴちゃん。
 私の足音に、彼女が気づいた。そういう時、どうすればいいのか、私は知らないはずだけれど、気づいたら動いていた。
 ぺたぺたぺたぺた。
 ぺたり、ぺたり、ぴちゃん。
 触れて、掴んで、捕まえた。
 じとじと、じとじと。
 雨の降り続く道の上に、私は立っている。私は私だったのか、私は彼女だったのか、私は誰かだったのか。よくわからないけれど、そういうものなのだと思った。

  終


影ごっこ

 私は小さい頃から、幼稚園の帰り道で、学校の帰り道で、変な歩き方をしていた。例えば、そこに電柱があるとする。その電柱の影が、真っ直ぐ、自分の歩いている道の上に、伸びていると仮定する。太陽との位置関係で、そんな方向に影が伸びるわけがなくても、あるのだと仮定する。そうして、その影を踏まないように、足を伸ばしたり、縮めたりしながら、歩く。電柱に限らず、例えばカーブミラーとか、柵の支柱とか、誰かのお墓とか。細長くて、そびえ立っているものなら、なんでもそういう風に仮定して私は遊びながら歩いた。
 ないけどあるということにしたたくさんの影を、避けながら歩くその遊びを、私はいつまで続けていたのか。中学か、高校か、よく覚えていないけれど、大学生の頃にはすっかりやめていたように思う。
 だけどさっき、私はそれを思い出した。
 夕日に照らされた電柱の影が、道の上にはっきりと映し出されていて、私はその影を、避けなければならないと思った。足を大きく伸ばして、影を避ける。そうして、幼い頃にも同じようなことをしたと、ぼんやり思い出した。
 ふと道の先を見ると、ガードレールの支柱が何本も何本も影を落としている。ガードレールの影たちが、私の道を阻んでいる。だから私は、私の道を阻む影を、全部乗り越えていった。ガードレールだけじゃない。電柱も、カーブミラーも、バス停も、街路樹も、みんなみんな影を落とすから、みんなみんな乗り越えていった。
 あの影は、踏んではいけないから。
 絶対に絶対に、踏んだら駄目だから。
 ジャンプしてでも超えなきゃならない。
 勢い余って転んじゃっても、影を踏まないためなら仕方がない。影はそういうものだから。これはそういうルールだから。だから私は、足を伸ばして、足を引っ込めて、時にはジャンプして、影を避け続けた。
 避け続けて、避け続けて、避け続けて。
 たくさんたくさんたくさんたくさん道に横たわる影を避け続けて。
 私はふと、気づいた。気づいてしまった。
 私が歩いていた道は、ずっと真っ直ぐだったわけじゃない。それなりにまがりくねった田舎の道だし、交差点もあったし、角を曲がったりもした。だけど、ガードレールも、電柱も、カーブミラーも、バス停も、街路樹も、みんなみんな、影を落としていた。みんなみんな、私の道の上に影を落としていた。
 不思議だと思った。おかしいと思った。だけど私がどう思おうと、私のすることは変わらなくて。すべきことは変わらなくて。してはいけないことも変わらなくて。
 私は絶対に、影を踏んではいけない。
 全部全部、超えていかなきゃならない。
 道の両側から伸びる長い影を、決して踏んではならない。
 地面に落ちた真っ黒な影を、必ず避けなきゃならない。
 そういうルールだから。
 私はおかしな歩き方で、帰り道を歩き続けた。ひたすらにひたすらに歩き続けた。帰り道は、こんなに遠かっただろうか。いつまでもいつまでも、歩いているような気がする。慎重に、足を伸ばして、ジャンプして、必死に影を避けながら、とても長い距離を歩いてきたような気がする。私はこのまま、いつまでもいつまでも、影を避けながら歩き続けるのだろうか。いや、そんなことはない。
 あの頃は、仮定の影だったから、家に帰るまで遊び続けた。太陽がどこにあっても関係なかった。昇っていても、沈んでいても、どうでもよかった。だけど、今私が避けているのは、地面に落ちた真っ黒な影だから。
 制限時間がある。時間が来たら、私の負け。道は全部、真っ黒に染まってしまう。ふと地面から目を離して、空を見ると、夕日は今にも沈みきってしまいそうだった。
 私はあとどれだけ歩けばいいのか。私の家はどこにあるのか。どこに向かって歩けばいいのか。全部わからなくなってしまった。影を踏んではいけない、それだけしか、わからない。だけど夕日は、とても理不尽に沈んでいって。
 私の足は、真っ黒な地面を踏んだ。

  終


路線違いのバス

 雨のじとじとと降る中、辿り着いたバス停で、時刻表を見た。自分の記憶と相違なく、次のバスが来るのは40分後。ずいぶんと待たなければならないと思いつつも、この雨の中を次のバス停まで歩く気はない。たかだか数十円の運賃の違いではその労力の対価として見合わないと見て、私は近くのベンチに座った。
 ざああっと水を跳ねながら行きかう車を、ぼんやりと眺める。携帯のバッテリーは切れる寸前で、こんなことなら本の一冊でも持ってくればよかった。せっかくこのバス停には、雨を凌げる屋根も、腰掛けるベンチもあるのだから。することがなく、ただぼんやりと道路を眺めるだけの時間は、酷く退屈で、時間の流れは緩やかだった。だからまだ、そんなに時間は経っていないはずなのだけど。
 このバス停に向かってくる、一台のバスがあった。
 初めは、別の路線のバスだろうと思った。番号を見れば、乗るつもりのバスとは確かに違った。だけど、行き先を確認すれば、経由する場所が違うだけで、目的地である終点は同じだった。この番号のバスがこのバス停を経由するなんて知らなかったけど、いつの間にか変わっていたのかもしれない。路線変更のお知らせなら、たまに見かける。さっき見た時刻表にも載っていなかったような気がするけど、自分の乗るつもりのバスを確認しただけだったから、見落としたのだろう。
 目の前にバスが止まり、ガシャガシャと開いたドアからバスの車内へ乗り込む。がらんとしたバスの中で、適当に、入り口の近くの席に座った。
 ガタガタと揺れるバスの中、ぼんやりと外の景色を眺める。やってることはさっきまでと同じだけど、景色が変わるだけでも雲泥の差だ。雨粒が窓を打つ向こうで、次々と変わっていく景色をぼんやりと眺める。いつものバスとは違う道を通るから、なんだか新鮮に思えた。いつも眺めるのとは違う街並み。雨の向こうで、過ぎ去っていく街並み。
 初めは、退屈を紛らわせてくれたそれらが、だけれど不意に、不安を過らせた。あの建物は、あの人々は、本当に、私が知っているこの街のものなのだろうか。この景色は、本当に、私の知っているそれと同じなのだろうか。当たり前のことのはずなのに、なぜだか確信が持てなくて、不安が這い上がってくる。本当にこのバスは、目的地である駅に辿り着くのだろうか。馬鹿げた話かもしれないけど、私は無性に不安を感じた。
 過ぎ去っていく建物の一つ一つに、謎の違和感を感じる。さっきまでそんなことはなかったのに、あのお店も、あのビルも、全く知らない街のもののように思えてしまう。雨粒が遮って、全てをはっきりと見ることができないのが、救いのようにも、恐ろしいことのようにも思えた。知っているはずの知らない景色が、雨粒の向こうで、次から次へと流れていく。信号には引っかからず、停留所にも止まらずに走っていくから、じっくりと見る暇も無く、景色は流れ続ける。
 流れる景色を見ているのが、なんだか怖くなって、ふと車内に目をやれば、乗ったときから変わらずがらんとしていた。乗客は私だけ、運転手さんと二人きり。バスの走る音と、バスに打ち付ける雨の音と、次の停留所を告げるアナウンスだけが聞こえた。
 私が勝手に不安に思っているだけで、たまに乗る、至って普通の乗客の少ないバスの車内だ。この地域で、他に乗客がいないのは、別に珍しいことではない。たまにそんなときもあるのだから、このバスがそうであっても、別におかしくもなんともない。だけど、今日だけは、他に誰かが乗っていたらよかったのにと思ってしまうぐらい、相変わらず不安が付きまとっていた。
 じっとりと、一度染み付いてしまった不安がぬぐえない。なにか安心する材料が欲しくて、バスの前方のミラーを見てみる。運転手さんの顔が見たくて、だけど、角度が悪いのか、どうにも、見ることができない。いつもは見えていただろうか、見えなかっただろうか、席の位置によって違うのだろうか。考えが巡るうちに、見てはいけないのではないかと、頭のどこかが警鐘を鳴らす。
 なら何を見ればいいのだと、私の視線は再び窓の外に向かって、けれどそこにあるのは、知っているはずなのに知らない街で。誰も歩いていない街は、記憶と照らし合わせれば確かに私の知っているいつもの街なのに、全く知らない街だと思えて仕方がなくて。這い上がって、絡み付いてくる恐怖に耐えられなくて、私は近くのボタンを押した。
 バスは少し走って、駅の二つ手前のバス停に止まる。馬鹿げたことのようだけど、そうだとは少しも思えないまま、私はバスを降りた。運転手さんの顔は見なかった。
 降りてしばらくは傘も開けなかった。少し経って、落ち着いて、辺りを見て、私のよく知っている街だとわかって、どうしようもなく安堵する。
 無駄に歩くことになってしまったけれど、それでも私は、降りてよかったと思った。あとから調べたら、あの番号のバスは、あのバス停を通っていなかったのだから。
 それどころか、そもそもあの路線は、昨年廃線になっていたのだから。

  終


帰り道

 ある日、学校からの帰り道。いつも通りに歩いていたら、野良犬に吠えられた。住宅街の道の真ん中で、何度も何度もしつこく吠えてくる。仕方がないからと、その日は迂回して帰った。その分家に帰り着くのが遅くなってしまった。嫌な日だった。
 また別の日のこと。先生に呼び止められて、よくわからない話を聞かされて、帰るのが遅くなった。高校では、部活にも委員会にも入ってないし、追試や補修の類いは全て回避してるし、余計な友達も作っていないから、いつもは真っ直ぐ家に帰れるというのに。先生のよくわからない話のせいで、帰るのが遅くなってしまった。
 更にまた別の日。駅の改札で、ICカードが何度もエラーを起こして、通るのに時間がかかった。改札から出るときだったからまだよかったけれども。いや、むしろ電車に乗る前の方が、乗り遅れないようにと急いで対処してもらえたかもしれないが。なんにせよ、また帰るのが遅くなってしまった。ここのところ、こんなことばかりだ。
 他にもたくさんあった。やたらと工事が増えて、通れない道も増えて、迂回してばかりだったり。顔も覚えていないクラスメイトに呼び止められたり。知らない人のペットになつかれたり。
 その度に、家に帰るのが遅くなった。早く帰らなければならないのに。みんなが私の邪魔をする。
 そして、今もだ。
 学校を出るまでに、いったい何人から声をかけられたことだろう。私が何をしたというのだ。名前も知らない人たちから、どうしてこんなにも、声をかけられねばならないのか。
 学校を出たら、カラスの群れに遭遇した。私の行く先に集まって、進もうとするとわらわらとたかってくる。子育ての季節でもないのに、よりによってどうして私にだけ。諦めて迂回することに決めて、道を引き返すと、それっきり襲われることはなかった。
 散歩中の犬と飼い主たちにも、何度かすれ違った。いつもより遅い時間だったから、夕方の散歩にちょうどいい時間なのか、何度も何度もすれ違った。そしてなぜかどの犬も、飼い主の命令を無視して、やたらと私にすり寄ってくる。構ってくれ、構ってくれと言っているかのようで、私にはそれが、かわいいなんて欠片も思えなかった。彼らから感じたのは、好意以外の何かだった。彼らは私の靴を噛んで、先へは行かせまいと引っ張ってくる。さっきのカラスと同じなのだ。どうして邪魔をする。彼らを振り払いながら歩いたから、更に時間がかかってしまった。
 そうして、どうにか駅まで辿り着いたけれども、ICカードの不具合で、改札では余計な時間を使って、更に電車も遅れてやってきた。乗っている間にも、何かのトラブルだとかで、途中で止まってしまった。外はどんどん暗くなっていく。私はいつになったら帰れるのだろうか。乗せたきり降ろすまいとでも言わんばかりに、とてもとても時間をかけて、ようやく電車は私の降りる駅に着いた。ICカードはこっちでも不具合を起こしたけど。
 駅前のやや明るい通りを抜けて、すっかり暗くなってしまった住宅街を歩く。野良犬には三回遭遇して、その度に吠えられた。噛みつかれることはなかったけど、私が道を通ることを執拗に妨害された。カラスたちのように、この道は通さないとでも言いたげで、なんだか不気味だった。
 私が家に帰ったら、いったいどんな悪いことが起こるというのか。いや、そんなわけはない。そんなことはありえない。家に帰るのが、間違いなく正しいことで。こんなの信じたくないけど、悪いなにかが、夜に紛れて、私のことをどこかに連れ去ろうとしているのかもしれない。或いは、その場で殺すだけかもしれない。
 とにかく、どんな恐ろしいことも、家にさえ帰り着けば、消えてなくなるはずだから。随分遅くなってしまったけど、それでも父さんと母さんは待っているはずだから。
 長い長い回り道を経て、どうにか帰り着いた家。私が開けなくても、玄関のドアは開いた。あぁ、そうだ、今日は大事な日だった。私はちゃんと覚えています。きちんと着替えて、準備して。
 今日は私が生贄になる日。

  ***

 僕の両親は狂っていた。
 だって、虐待としか呼べないような教育を施して、子供を自分たちの望む性格に無理やり矯正して、最後には生贄として化け物に捧げるなんて。狂っているとしか、言いようが無い。
 あのときの化け物の姿は、今も脳裏にこびりついてはがれない。肉塊、という表現だけではとても足りない。何人もの人間の内臓を集めてきて、それを歪に縫い合わせて、それぞれが生きているかのように動かしたとしても、このおぞましさを再現することはできないだろう。
 けれども、そんな存在すら認めたくないような化け物から、逃れる術なんてなくて。なにも考えられずに、ただそこで動けないでいると。口にはとても見えないが、無理やりにでも例えるなら口と言えないこともないかもしれないような部分が、やがてぱっくりと開かれて。その内側の、なにもない、ただただ真っ黒で、真っ暗で、闇すらないかもしれないそこが。見えたと思ったら、僕はすっかりその中に、包み込まれていた。
 なにもなかった。
 なにも見えなくて、なにも聞こえなくて、なにも感じられなくて。あの化け物の姿よりも、もっとずっと恐ろしかった。
 なんにもない、自分もない、自分もいない。なにひとつなくて、自分すらどこにもいなくて。気が狂いそうだった。いや、すでに狂っているのかもしれない。ともかく、途方も無くなにもなくて、なにもなかった。
 けれども。
 気づいたら僕は、見慣れた家の中にいた。体は透明で、人にも物にも触れることはできなかったけれど。いわゆる、幽霊なのだろうと、ぼんやり思った。触れることも、言葉を発することも、姿を見てもらうことも、なにもできなくて。だけど自分はここにあった。なにもないよりかは、ずっといいと思った。
 そして僕は、妹のもとへ向かった。僕への教育で学んだのか、身体的な虐待はなかった。だけど彼らの教育は、まさに洗脳で。彼女は両親の望んだ通りの性格に育って、両親の言うことならなんでも聞いた。たとえ家になにが待っていようと、それを知っていようと、彼女は両親の待つ家へ帰ることを最優先とした。たとえ、あの化け物がいるのだと、知っていようとも。
 それでも僕は諦め切れなかった。諦めることなんてできなかった。これは僕なりの、復讐にもなるのだから。
 ただの幽霊だけど、その気になれば、守護霊まがいのことも、できないことはないようで。機械の調子をおかしくしたり、動物たちをけしかけたり、人の思考を少しだけずらしたり、出来る限りのことを試した。

 それでも、結局のところ、辿り着いたのはとても残念な結末で。気づいたら、僕の周りにはなにもなくて。悲しい、悔しい、恨みがましい、そんな感情もなくなって。
 僕はなくなった。

  終


私の身体は誰のもの?

 馬鹿げた話かもしれない、とは思うのだけど。時折無性に怖くなってしまう。自分で、自分を、傷つけてしまうかもしれないことが。自分で、自分を、殺してしまうかもしれないことが。
 自傷とか、自殺とは、ちょっと違う話なのだ。なんだか疲れて、顔を覆おうとしたその手が、少しずれて、傾いて、勢いよく、指が眼球を突き刺すとしたら。或いは階段で、足を踏み出す先を間違えて、そのまま前のめりに倒れて、落ちていったとしたら。私はそういうのが、とても怖い。
 ちょっとしたミスによって、人間はいとも簡単に、自滅してしまう。ちょっとしたミスにみせかけて、人間はいとも簡単に、殺されてしまう。もしもこの身体を、ほんの僅かでも、誰かに乗っ取られたとしたら。
 ありえない、単なる妄想として一蹴すべきなのだろうけど、私の脳みそは、この妄想に取り憑かれている。笑われるのが嫌で、誰にも話したことはないけど、ある日、かけようとした眼鏡のつるが、目のすぐ側にぶつかったことがある。正確には、ぶつけた、と言ったほうが正しいのかもしれない。その眼鏡を持って、顔へ近づけ、動かしたのは、私自身だったのだから。
 ただの偶然、ちょっとしたミスとして片付けるのは簡単かもしれないけれど、私はこのとき、心の底から恐怖した。ただのミスだとしても、人間はこんなにも簡単に、恐ろしい事故を引き起こしてしまうのだ。もしも誰かが、私の身体を一瞬だけでも乗っ取れるのだとしたら、死はすぐ目の前にあるのだ。そんな恐怖が染み付いて、拭えなくなった。
 時にこの恐怖は、どうしようもないぐらい大きくなって、眠ることすら恐ろしいほどになって。自分の身体を、部屋にあった適当な紐と布団で無理やり巻いて、完全ではないが、そう簡単には自力で動けないようにしたこともあった。それぐらいに、恐ろしかった。自分で自分を傷つけることが。自分で自分を殺すことが。
 だが、いつまでもこうして、ただ恐怖してばかりいるわけにもいかない。流石にこれは異常だと、自分でもわかっているのに、それでも止められないことがまた恐ろしくて。思い切って、精神科を受診してみることにした。
 病院を調べて、予約して、少し早めに着くような時間に家を出た。電車に乗って、バスに乗って、もう少しあるけば着くだろうかというそんな時。
 目の前に一匹の黒い猫が現れた。
 猫はこちらをじっと見つめて、少しの間目が合って、そのあとすぐ側の路地へ駆けていった。なんとなく気になってしまって、私はその路地に入った。猫を追うように、奥へ奥へと進んでいき、やがて壁に突き当たり。壁の前には、一冊の日記が落ちていた。自分の意思なんてないかのように、気づいたときには日記は私の手に収まっていて。日記を開き、ページをめくっていた。
 一見なんの変哲も無い、ありふれた日記に見えたけれども。その端々には、まるで私自身の日記であるかのような、自分の身体が自分を殺すことへの恐怖が滲み出ていた。少しずつ、少しずつ、それは忍び寄っていた。思っていたのと違うほうへ動いてしまう、指、手、腕、足、脚、口、眼球。人間なら誰もがしうる、ただのミスだと思えない何か。いつ奪われるのか、いつ傷つけるのか、いつ殺すのか。いるかもわからない何かに怯えたまま、日記は中途半端なところで途切れていた。
 奇妙な気持ちだ。なんだか心がもやもやとする。そんな気持ちのまま、眼鏡を外して、頭を抱えようとして。顔に手を伸ばして。指がなぜか真っ直ぐに伸びて。
 それから先のことは、わからない。

  終


戻る